2021.02.19 / NEWS
腸内環境から組み立てる旅in熱川
伊豆半島東海岸のちょうど中ほど、相模湾に面した傾斜地に湯けむりを上げる熱川温泉。国内屈指といわれる名湯を始め、どこからでも海を一望できる傾斜地ならではの抜群の眺望や豊かな山海の幸など、その魅力は多岐にわたっている。
そんな熱川温泉の恵まれた環境を生かして実施されたのが今回のツアー。良質な温泉と豊かな地域食材を通して腸内環境を整え、感染防御力を高めることによって、Withコロナ時代に合った理想的なワーケーション環境を提供しようという試みだ。
熱川温泉観光協会と日本健康開発財団が主体となって実践された1泊2日のモニターツアーをリポートしよう。
[ 目次 ]
1.腸内環境から組み立てる旅とは?
まずは主催者の代表である日本健康開発財団の後藤康彰医学博士から、今回のツアーの目的・内容について説明があった。最大のテーマは、温泉地滞在によって「感染防御力」「免疫力」を高めること。特に免疫機能に係る70%の細胞が腸管粘膜にあることから、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)を元気にすることが免疫力を高める上でもっとも重要なポイントであるとのことだ。
その観点から、東伊豆ならではの地域食材を使った「食プログラム」を構築。そこに効能豊かな熱川の塩化物泉を活用した「目的別入浴法」、環境を生かした「強度別運動法」を組み合わせることで、循環機能とNK細胞(自然免疫の一種)の改善・活性化をうながすというのが一番の目的である。
キーワードは「温・動・笑・休・食」。温泉で体を温めて全身の免疫を強化し、適度な運動で代謝アップ、家族や仲間と楽しく過ごすことで免疫バランスを改善、深い睡眠でゆっくり休み、地元の豊かな食材で腸内の粘膜免疫を整える。そんな個々の目的から逆引きして滞在地を選ぶことこそが、「腸内環境から組み立てる旅」なのだ。
2.自分の腸内環境に適した旅を企画しよう
では、なぜ腸内の環境を整えることが免疫力アップのために重要なのか。慶応義塾大学先端生命科学研究所特任助教であり、腸内環境の研究を通して病気ゼロ社会の実現を目指す㈱メタジェン執行役員でもある村上慎之介氏から説明があった。
「人の腸内には1人あたり数百から1000種類以上、数にして約40兆個もの細菌が存在しています。この腸内細菌の群集を腸内細菌叢といい、そこで産生される代謝物質は血管に取り込まれて全身に作用します。つまり腸内環境の良し悪しが病気の発症や健康維持と密接に関わっているといえます」と村上氏。腸内環境を整えることで代謝がよくなり、ひいては免疫力アップにつながっていくのである。
しかし、この腸内環境は生活習慣や食生活に左右されるため、人それぞれでタイプが異なる。例えば同じサプリメントを飲んでも効果がある人もいればない人もいるように、平均で議論できないのが現実。今後はさまざまなタイプの腸内環境を研究し、それに応じてヘルスケアもパターン化することが必要になってくるとのことだ。
そこで村上氏が推奨するのが、「お腹が食べたいものを食べる旅」。自らの腸内環境タイプを知った上で、それに最適な食材・環境を求めて出かける新しい旅を実践してみよう。
3.地元食材が生む免疫アップ料理
腸内環境がもたらす健康への影響を理解したところで、いよいよお待ちかねの夕食タイム。一同が席に着き、前菜を盛った一皿が運ばれてきたその瞬間、会場全体が華やかな歓声に包まれた。それもそのはず、大皿にはさまざまな食材を使った色も鮮やかな料理が30品も散りばめられているではないか。まるで花畑を思わせる美しさ。これは、このプログラムのために東京目黒の人気イタリアン「リナシメント」が特別にプロデュースした一皿。
ムール貝のみかんワイン蒸し、乳酸菌ミニトマトのカプレーゼ、ぐり茶ゼリーの山葵茶漬け仕立て……。いずれも東伊豆の食材や調味料を使った料理である。リナシメントのオーナーソムリエ・三浦幸一氏は「お皿の上でも熱川を感じられることを意識して作りました。食べ方にもルールがあって、メニュー表に書いてある料理名の順番に召し上がってください」。これだけ多彩な料理を決められた順番に? みんなメニュー表を見ながら、「これ生ハムじゃない? こっちがヒラメのカルパッチョかな?」とまわりと相談しながら食べ進む。
「こうすることで会話が生まれ、自然に場が盛り上がります。食事をする上でコミュニケーションに勝る調味料はありませんから」と三浦氏。ゆっくり味わうことで消化もよくなり、腸内にも優しい食事が楽しめる。会話と笑顔と食が生み出す効果、まさに免疫力アップにつながる内容だと実感した。
前菜のあとは、熱川プリンスホテルの渡部正紀料理長が手がけた会席料理に舌鼓。地野菜とアワビの温泉蒸し、稲取産金目鯛の漁師煮など、こちらも地元食材のオンパレード。あらためて東伊豆の豊かな恵みに驚きつつ、楽しい時間は過ぎていった。
4.熱川温泉の魅力
今回のプログラムの舞台となった熱川温泉は、温泉街としての規模はさほど大きくないが、そこに湧き出る湯は温泉通の間でも「日本屈指」と評判を得るほどの名湯である。
町中に13本もの温泉櫓が建つほど豊富な湧出量に加え、わずか15分でゆで卵ができる約100度の超高温、PH8以上のアルカリ成分と200㎎/㎏を超えるメタケイ酸が多く含まれている。湯量が多いため、ほとんどの宿が源泉をかけ流しにしているのも大きな魅力だろう。
温泉街は相模灘に面して急峻の傾斜地に作られており、そのため街のどこからも蒼く広がる海を一望することができる。時間とともに刻々と移り変わる海景を見ながら温泉に浸かり、夜は満天の星空を眺めてグラスを傾ける。心安らぐ時間がゆっくり過ぎていく。
豊かな自然と傾斜地に位置する環境は、免疫力を高めるための適度な運動にも向いている。今回のツアーでも早朝6時から海岸線をウォーキングし、水平線から昇る朝日を全身で浴びながらヨガや体操を楽しんだ。朝の爽やかな空気や潮の香りに包まれて体を動かしていると、体内時計がリセットされ、自分の中でふつふつと新しいパワーが生まれてくる気がした
5.集合時と解散前にヘルスチェック&抗原検査を実施
コロナ禍で実施された今回のツアーでは、入念な感染症対策が行われたことは言うまでもない。参加者は10日前から発熱や味覚・嗅覚の異常、倦怠感の有無などを毎日記録し、会場となった熱川プリンスホテルに到着してからも、玄関前でウイルス感染の抗原検査を実施。ツアー参加中も絶えず体温をチェックした。
さらに今回の体験を通して、体にどんな変化が現れるかをデータ化するためヘルスチェックを行った。到着後と解散前に抹消血液循環計測による血管年齢&自律神経の計測、唾液アミラーゼ測定によるストレス度チェックなど。加えてツアー内容と健康に関する詳細はアンケートも提出した。
ヘルスチェックのビフォーアフターは人それぞれだが、熱川のすばらしい自然環境、泉質と眺望に恵まれた温泉、目と舌で地元食材を堪能した食事など、五感で味わい尽くした旅が体に悪いはずがない。
温泉や食事で免疫力を高めながら過ごす滞在型ワーケーション。この時代だからこそ、こんな旅の選び方もアリではないだろうか。
フォト&テキスト:五十嵐英之